クラウド
二〇〇六年三月十三日、AmazonはS3を「一ギガバイトあたり月一五セント」で開けました。八月にはEC2——コンピュータそのものの時間貸しが続きます。一九五九年、ゼロックスは複写機を売らずに一枚単位で貸しました。クラウドはあの型の完成形です。機械どころか置き場所ごと持たず、秒とギガの単位で使った分だけ払う。スタートアップはサーバーを買う元手なしに世界へ出られるようになり、この地図の近年の型の多く——サブスクも、フリマも、配信も、投げ銭も——は、実はこの土台の上で動いています。そして数字が、この商売の正体を語ります。二〇二四年、AWSはAmazonの売上のおよそ一八%で、営業利益の約五八%を稼ぎました。本業の脇に立てたはずの事業が、利益では本業を追い抜いています。
神話の訂正
AWSは、Amazonの余っていたサーバーを貸すことから始まった
当のAWSのCTOヴェルナー・ヴォゲルスが「余剰能力の話は神話だ」と明言しています。仮に余りがあったとしても開始二ヶ月で使い切っていたはずで、初期の設計者ベンジャミン・ブラックも「すべて最初からAWSのために設計された」と証言しました。脇道の再利用ではなく、狙って作られた事業です。もっともらしい起源譚ほど、本人が否定している——この地図で何度も見てきた形です。