ナルックム契約
アナトリアの交易都市カネシュから出た粘土板は、これまでにおよそ二万三千点。そこには、複数の出資者が資金を「金袋(ナルックム)」にまとめ、一人の商人に十年、十二年と託して、利益を約束の割合で分ける契約が残っています。出資と経営の分離が、中世イタリアより三千年前に動いていました。そして、この商いの片側を担っていたのは、家に残った妻たちです。夫や息子が片道六週間の隊商路を行くあいだ、アッシュルの女性たちは大きな織物を織り、それが交易の主力商品になりました。手紙には納期と品質の指示が並び、彼女たちは自分の銀を貸す債権者にも、ナルックムへの出資者にもなっています。輸出品をつくり、資本も出していた——古代の商いは、留守番の話ではありませんでした。出資金が返ってこないと訴えた記録も出ています。投資のもめごとも、四千年前からありました。
神話の訂正
ナルックムは世界最古の株式会社だった
「金袋」を意味するナルックムは、たしかに出資と経営を分ける契約でした。けれど株式会社の芯にあるもの——出資者が入れ替わっても会社が続く法人格と、持分が自由に売り買いされる市場——は、粘土板からは確認できていません。研究者のモーエンス・トロレ・ラーセン自身、初期植民地時代を過ぎるとナルックム型は廃れ、より単純な一航海ごとの共同出資に戻っていったと書いています。近代の資本市場のかたちを古代に重ねて見てしまう——同じことが、すぐ隣の帯(→徴税請負)でもう一度起きます。