スーパーアプリ
アプリストアは「場を貸す」商いの完成形でした(二〇〇八年)。ところがその上に、もう一段の大家が現れます。二〇一七年一月九日、WeChatが「ミニプログラム」を開きました。アプリの中で動く小さなアプリです。一年で五十八万本、いまは四百万本を超え、月に九億人規模が触れています。ここで効いているのは技術より場所です——ミニプログラムはApp Storeの審査も三割の手数料も通りません。大家の上に、別の大家が立ちました。東南アジアではGrab(二〇一二年・マレーシアで配車から)とGojek(二〇一〇年・インドネシアでバイクタクシーの電話受付から)が、配車から決済・出前・銀行までを一つに束ねます。なぜ欧米で同じものが生まれなかったのか。よく挙げられるのは、パソコンの世代を飛ばしてスマホから始まったこと、銀行口座を持たない人が多くモバイル決済が代わりのインフラになったこと、規制が緩かったこと、そして——欧米ではアプリの配信と決済をすでにアップルとグーグルが握っていたことです。場を貸す商いは、先に誰かが場を取っていると、二段目が生まれにくい。
神話の訂正
PayPayやLINEは、日本のスーパーアプリだ
呼び名としてはよく使われますが、構造が違います。WeChatやGrabは決済も配車も出前も金融も、ひとつのアプリの中で完結します。日本のそれは別々のアプリが会社のグループで手をつないだ「経済圏」で、単一アプリ完結型とは別のかたちです。同じ言葉で呼ぶと、なぜ日本で同じことが起きないのかが見えなくなります。